第4章 【第三話】檻と家のはじまり
食堂を出たあと、最初に案内されたのは医務室だった。扉の向こうから漂う消毒液の匂いに、自然と背筋が伸びる。
幾つかの寝台には、任務で傷を負ったファインダーたちが横になっていた。
包帯の巻かれた腕。苦しげに眠る顔。
戦いの場では、エクソシストだけが傷つくわけではない。
その当たり前の現実を、目の前へ差し出されたような気がした。
私は何も言えず、ただ静かに頭を下げる。
この人たちが一日でも早く痛みから解放されることを、心の中で願った。
それから、長い回廊をいくつか抜け、鍛錬場へ向かう。
扉を開けると、刀が空気を裂く鋭い音が耳に届いた。
私は、思わず足を止めた。
広い鍛錬場の端。
一人の青年が、無駄のない動きで刀を振るっている。
長い黒髪。背筋の伸びた姿勢。
振るわれる刃は、迷いなく、ひどく鋭い。
周囲の音をすべて断ち切るみたいに、何度も振り下ろされる。
「神田、今日もやってるわね」
リナリーが小さく呟く。
「……神田?」
「神田ユウ。私たちと同じエクソシストよ。少し話しかけづらい人だけど、腕は確かだから」
「少しどころじゃねぇけどな」
ラビが横から笑う。
けれど、私は二人の声へすぐに返事ができなかった。
青年が刀を振るうたび、風切り音に何かが混じる気がした。かすかなのに、耳の奥がざわついて落ち着かない。
人の魂の音は、普段なら声や触れた指先を通して、わずかに感じ取れるだけだ。まだ一言も話していない彼から、どうして。
私は青年から目を離せなくなった。