第4章 【第三話】檻と家のはじまり
薄暗い空間の奥で、巨大な存在が静かに揺れている。
人の形を思わせる輪郭。幾本もの腕のようなもの。そこにいるだけで、広間そのものが呼吸しているような、不思議な圧迫感があった。
私は息を呑む。
「……ティファ……」
低く、深い声が、石壁へ響いた。
名を呼ばれた瞬間、身体の内側まで見通されたような感覚に襲われる。
「……お前の内に宿るイノセンスを……見せておくれ……」
ゆっくりと伸びてきた触手が、私の身体を包み込む。
思わず身を強張らせたが、痛みはなかった。喉の奥へ直接触れられているような圧迫感に、呼吸が浅くなる。
ヘブラスカは、長い沈黙のあと、静かに告げた。
「寄生型イノセンス……ニルヴァーナ……」
その声に、わずかな揺らぎが混じる。
触手の先が、喉元へそっと触れた。
やがて、彼女は私の名をもう一度呼んだ。
「ティファ……」
「……はい」
「お前のイノセンスは……いつか救済の果てに……大いなる『終焉の導き手』を生むだろう……」
心臓が、強く打った。
「……終焉の、導き手……?」
聞き返した声は、ひどく小さかった。