第4章 【第三話】檻と家のはじまり
「白き歌を宿す者よ……お前の歌が……救いとなるか……終わりとなるか……」
ヘブラスカの触手が、わずかに揺れる。
喉の奥で、ニルヴァーナが熱を持った。
不意に、師匠の声が蘇る。
――そうやって他人の痛みまで拾ってると……いつか、その力がお前を食い潰すぞ。
「……ティファちゃん」
コムイさんの声が、すぐ傍で聞こえた。
振り向く。
彼は眼鏡の奥の瞳を曇らせながら、心配そうに私を見ている。先ほどまでの明るく飄々とした雰囲気は、そこにはなかった。
「大丈夫かい?」
すぐに頷くことはできなかった。
怖くないと言えば、嘘になる。
自分の歌が、いつか何をもたらすのか。
私自身にも、分からない。
それでも、ここで立ち止まるわけにはいかなかった。
「……大丈夫です」
ようやく微笑む。
「少し、驚いただけですから」
コムイさんは、すぐには答えなかった。ただ、私の表情をじっと見つめる。
その目にあったのは、能力への興味ではなかった。
「……そうか」
やがて、彼は柔らかく言った。
「でも、驚いた時くらいは、無理に平気な顔をしなくてもいいんだよ」
その言葉に、胸の奥がわずかに揺れた。
私は答えられないまま、小さく目を伏せた。