第2章 【第一話】雪に残る歌
祈りのようで。
同時に、すべてを切り裂く刃のような旋律だった。
次の瞬間。
私の中から、二つの光が溢れ出した。
一つは、腕の中から消えようとしている母へ向かう、淡く柔らかな光。
もう一つは、目の前の異形へ襲いかかる、鋭い白銀の閃光。
「なに……?」
自分の身に何が起きているのか、分からなかった。
淡い光が、灰へ崩れかけた母の身体を柔らかく包み込む。
黒く侵食された肉体は救えない。
それでも、母の中からほんの小さな輝きが浮かび上がった。
冷たい灰へ呑まれてしまう前に、穢れのない何かだけが、そっと掬い上げられていく。
「お母さん……?」
それが母の魂なのだと、なぜか分かった。
誰かに教えられたわけでもない。
魂というものを見たことすらない。
それでも、その光へ触れた瞬間だけは、確かに母だと思えた。
――行かなければならない。
ここではない場所へ。
誰にも捕まらない場所へ。
そんな感覚が、歌の奥から流れ込んでくる。
一方。
異形へ向かった白銀の光は、まるで違っていた。
「ああああああああッ!!」
絶叫が雪原へ響き渡る。
歪んだ笑みが崩れる。
黒い身体へ、白い亀裂が走った。
一つ。
二つ。
やがて、全身へ。
母を包む光のような優しさはなかった。
鋭く。
眩しく。
逃げ場を与えず。
異形そのものを破壊する力だった。
その時、聞こえた。
異形の悲鳴の奥から。
別の声が。
『たすけて……』
幼い声だった。
泣きながら、震えながら、助けを求める誰かの声。
「誰……?」
胸が、大きく揺れる。
母を殺した異形の中に、誰かがいる。
泣いている。
苦しんでいる。
その意味を理解することはできなかった。
けれど、その声が異形の外からではなく、内側から聞こえていることだけは分かった。
『いたい……こわい……』
声が胸へ流れ込んでくる。
まるで、自分まで引き裂かれているようだった。
涙が溢れる。
「ごめんなさい……」
誰へ向けた言葉だったのか、自分でも分からない。
母へなのか。
異形の中で泣いている誰かへなのか。
それとも、歌うことしかできない自分へなのか。