第2章 【第一話】雪に残る歌
耳障りな笑い声が頭上から降ってくる。顔を上げると、母を殺した異形がこちらを見下ろしていた。
……何がそんなに楽しいの。
お母さんがこんなふうになっているのに……っ。
腕の中から、さらさらと灰が零れていく。異形が一歩、こちらへ踏み出した。
……っ! 次は、私だ。
逃げなければいけないのに、動けなかった。母の身体から手を離すことなど、できるはずがない。
「来ないで……」
異形が、雪を踏み砕く。
「来ないで……!」
振り上げられた腕。母を貫いたものと同じ、黒く禍々しい刃。
それが今度は、私へ向かって振り下ろされる。
その瞬間だった。喉の奥が、焼けるように熱を帯びた。
「っ……!」
息が詰まる。
胸の奥から、何かが激しくせり上がってくる。
痛い。苦しい。消えてしまう母を繋ぎ止めたい。
その願いが、喉の奥で弾けた。
知らないはずの旋律が、唇から溢れ出す。
澄んだ音が、雪の降る世界へ響いた。
幼い頃から、母が聞かせてくれた子守唄に似ていた。
けれど、それよりもずっと深く、遠く、悲しい歌。
祈りのようで。
同時に、すべてを切り裂く刃のような旋律だった。
私の中から、二つの光が溢れ出した。
一つは、腕の中から消えようとしている母へ向かう、淡く柔らかな光。
もう一つは、目の前の異形へ襲いかかる、鋭い白銀の閃光。