第2章 【第一話】雪に残る歌
母の傷口の周りに、黒い斑点が浮かび上がった。
星のような形をした、禍々しい痣。
それは瞬く間に胸元から首筋へ、腕へと広がっていく。
「なに……?」
母の指先が、黒く染まった。
次の瞬間、さらり、と指の先が灰のように崩れた。
「え……?」
呼吸が止まる。
黒い灰が、白い雪へ零れ落ちていく。
「いや……なに、これ……お母さん……!」
私は崩れ始めた母の手を、両手で包み込んだ。なのに、握り締めたはずの指は、触れた端から脆くほどけていく。
「嫌……嫌……! 消えないで……!」
「ティファ……」
母は苦しそうに息を吸い、それでも残った力で手を伸ばした。崩れかけた指先が、私の喉元へ触れる。
「あなたは……生きて……」
「お母さん……!」
「最後の……セトラの子、だから……」
「セトラ……?」
問い返した声は、母へ届かなかった。母の指が、力なく落ちる。
黒い侵食が一気に広がり、身体の端から灰へと崩れていく。
「いや……!」
私は母の身体へ縋りついた。
「嫌! お母さん! 待って……置いていかないで……!」
母の唇が、最後に少しだけ動いた。声にはならなかった。でも、私を呼んでくれたんだと気付いた。
それを最後に。
母の瞳から、光が消えた。