第2章 【第一話】雪に残る歌
「おかあ、さん……?」
声が、喉の奥で引き攣った。
異形が腕を引き抜く。母の身体は、力なく雪の上へ崩れ落ちた。
「お母さん……!」
私は転ぶように駆け寄った。
雪へ膝をつき、母の身体を抱き起こす。
「お母さん、しっかりして……! お願い、目を開けて……!」
震える手で傷口を押さえても、幼い両手では溢れる血を止めることなどできなかった。指の隙間から、温かな赤が流れ落ちていく。
「ティファ……」
掠れた声が、確かに私の名前を呼んだ。
母の瞳は、まだ私を映している。
「嫌……お母さん、嫌……! 今、誰か呼ぶから……!」
立ち上がろうとした私の手を、母が弱々しく掴んだ。
「駄目……聞いて……」
「でも……!」
「ティファ……」
涙で滲む視界の向こうで、母は必死に私を見ていた。
「クロス・マリアンを……探しなさい」
「クロス……?」
聞いたことのない名前だった。けれど、母の瞳は真剣だった。
「その人なら……あなたを……守ってくれる……」
「そんなの……お母さんも一緒に行けばいいじゃない……! 一緒に探せばいいでしょう……? だから、立って……お願い……」
母は、ほんのわずかに微笑んだ。その表情が、ひどく怖かった。
まるで、もう自分が一緒に行けないことを知っているみたいだったから。