第21章 【第二十話】残り香は、まだ熱い
身支度を終えてから、意を決して食堂へ向かった。
教団の朝は早い。科学班の何人かが、もう眠そうな顔でコーヒーを飲んでいる。
その中で、窓際の席に頬杖をついていたラビがこちらを見た。翠の目が、ゆっくり細められる。
どくん、と心臓が変な跳ね方をした。
誤魔化すように、手元のマフラーを握り直す。ラビはそれを見て、小さく笑った。
「お、やっと返してくれんの?」
「……っ」
やっぱり、気付かれていた。少し気まずくなりながら、ラビの前まで歩いていく。
「ご、ごめんなさい……勝手に借りたみたいになって」
「借りた、ねぇ」
ラビは肩を竦めた。
「返せって言っても、離さなかったの誰さ」
「~~っ!!」
勢いよく周りを見回す。幸い、近くの科学班は別の話題で盛り上がっていて、聞かれてはいない……はず。
顔を真っ赤にしたまま、マフラーを差し出した。
「はい……」
笑いながら、ラビが受け取る。渡した拍子に、指先が触れた。
反射的に、手を引っ込めた。
ラビが、じっとこちらを見る。
「……覚えてんの?」
息が止まる。
覚えていない。でも、何かとんでもなく恥ずかしいことをした予感だけはある。
黙り込んでいると、ラビはふっと笑った。
「いや、忘れてんならいいさ」
その笑みが妙に意味深で、余計に不安になる。
「ちょ、ちょっと待って。私、本当に何したの!?」
「内緒」
あっさりと、しかもすごく楽しそうに返された。
顔を真っ赤にしたまま立ち尽くす私の前で、ラビは受け取ったマフラーを首に巻き直した。
その仕草が、昨日までよりずっと親密なものに見えて、ますます目のやり場がなくなった。