第4章 【第三話】檻と家のはじまり
艶やかな黒髪を揺らし、まっすぐこちらへ歩み寄ってくる。その表情は呆れているのに、瞳には親しみ深い温かさがあった。
「ラビ、初対面の女の子にいきなり何してるの!」
「痛たたたっ! リナリー、耳! 耳は勘弁してほしいさ!」
少女がラビの耳を軽く引っ張る。
ようやく解放された右手を胸元へ戻しながら、私はそっと息を吐いた。手が離れたことへ、わずかに安堵している自分に気付く。
耳を引かれたラビは、情けない声を上げている。
そこにいるのは、友人に呆れられながら軽口を叩く、ごく普通の少年にしか見えなかった。
「もう。本当にごめんなさい、驚かせちゃったわね」
少女はラビの耳を離すと、申し訳なさそうにこちらへ向き直った。
「ラビは、綺麗な人を見るとすぐこうなるの。悪い人じゃないんだけど……距離感がちょっと変なのよ」
「ちょっとって何さ、ちょっとって」
「黙ってて」
ぴしゃりと言われ、ラビが口を尖らせる。
少女は改めて、私へ柔らかな笑顔を向けた。
「私はリナリー・リー。兄から聞いていたの。クロス元帥の弟子が、今日ここへ来るって」
「ティファ・ロキルよ。よろしく、リナリー」
「ティファ……素敵な名前ね」
リナリーは嬉しそうに微笑み、私へ手を差し出した。