第4章 【第三話】檻と家のはじまり
私は無意識に、握られた手へ視線を落とした。
温かい。確かに、生きた人の手だ。
目の前にいるはずの彼が、一瞬だけ、ひどく遠く感じられた。
私が黙り込むと、満面の笑みはそのままに、翠の瞳だけがすっと静まった。こちらの沈黙を、測るみたいに。
それもすぐに消えて、目元まで人懐こい色が戻る。ラビは握った手を軽く振った。
「で、名前は? オレばっか名乗ってんの、ずりぃだろ?」
小さな警戒心が、胸へ落ちた。
その正体までは、分からなかった。
私はそれを表情へ出さないようにしながら、穏やかに微笑んだ。
「……初めまして、ラビ。私はティファ・ロキル」
「ティファ!」
ラビは嬉しそうに名前を繰り返した。
「いい名前さ。すげぇ似合ってる」
「ありがとう。でも、そんなに慌てなくても、挨拶くらいゆっくりできるわ」
ラビの笑顔が、ふっと止まった。
その目に、驚きと、それを上回る興味の色が浮かぶ。
「……へぇ」
「見た目より、ずっと落ち着いてんだな」
「見た目だけじゃ分からないでしょう?」
「そりゃそうだ」
ラビは笑いながらも、こちらから目を離さなかった。
その時。
「はいはい、そこまで!」
凛とした声が、回廊へ響いた。
すぐに、軽やかな足音が近付いてくる。
現れたのは、黒の団服を纏った少女だった。