第26章 【第二十五話】終幕なき夜・後編
神田の怒りは、普段から鋭い。
けれど今の声は、いつも以上に冷たかった。
私は小さく息を吐く。
それから、神田の横へ一歩出た。
光のレイピアの切先を、静かに支配人の喉元へ向ける。
「……あなたが見ているのは、愛じゃない」
支配人の瞳が揺れる。
私は視線を逸らさない。
「残された人の弱さにつけ込んで、死へ引きずっているだけ」
「会いたいと願うことも、戻ってきてほしいと泣くことも、間違いじゃない」
その瞬間。
エリアーデの最後の声が、耳の奥を掠めた。
――あなたを、愛したかったのにな。
そして。
彼女を抱き締め、壊れそうな声で泣いていたクロウリーの姿。
あの痛みは。
誰かに見世物として消費されていいものではなかった。
愛した人を失い。
それでも、生きていかなければならない者の。
どうしようもなく、本物の痛みだった。
さらに、遠い記憶が胸の奥で揺れる。
白い寝台。
病に蝕まれ、ゆっくり冷たくなっていく父の手。
幼い私は、母の服を握り締め、泣きながら縋った。
――もう一度、お父さんに会いたい。
母は、涙を堪えるように目を伏せたまま、静かに首を横へ振った。
――死者を無理に繋ぎ止めてはいけないの。
――あの人は、もう眠る時なのよ。