第26章 【第二十五話】終幕なき夜・後編
舞台袖の暗がりで、六幻の柄へ手を掛ける神田の姿が見えた。
今にも飛び出してきそうな気配。
私は歌を途切れさせないまま、鋭く彼を見つめ、僅かに首を横へ振った。
――まだ、来ないで。
神田の動きが止まった。
その眉間へ、深い皺が寄る。
六幻の柄を握る手へ、見るからに力が籠もった。
倒すだけでは、足りない。
観客達はまだ、死者の幻へ手を伸ばしている。
泣きながら。
微笑みながら。
その向こうへ、歩いて行こうとしている。
この人達は、まだ生きている。
この人達を死者へ向かわせているのは、愛ではない。
死者を求める心へ絡み付き、生者を死へ引きずろうとする偽りの糸だ。
私は小さく息を吸う。
そして、歌へさらに力を込めた。
白銀の光が、舞台から観客席へ静かに広がっていく。
黒い靄へ触れた瞬間、光が細かな粒となって弾けた。
誰かが、崩れ落ちるように泣き始める。
「……違う」
震える声。
「あなたは……もう、いない……」
その言葉を皮切りに。
幻へ伸ばされていた手が、一つ、また一つと下りていく。
死者の声が途切れる。
黒い影が、光に押し返されていく。
観客達が、ゆっくり生きている側へ戻ってきた。