第26章 【第二十五話】終幕なき夜・後編
AKUMAの姿と演目を媒介に、観客の心へ死者の幻を植え付けている。
死ねば会える。
幕の向こうで待っている。
もう一度、抱き締めてもらえる。
そんな甘い毒を、喪失を抱えた人々へ流し込んでいる。
AKUMAの爪が、私へ向く。
私は静かに息を吸った。
歌は、止めない。
止めれば、観客達はそのまま死者の呼ぶ声へ引きずられる。
黒い爪が振り下ろされた。
私は身体を翻し、深紅のドレスの裾を大きく揺らす。
鋭い爪が、腕の端を掠めた。
深紅の袖が裂け、白い肌へ細い赤が走る。
熱い痛み。
それでも、歌を途切れさせるわけにはいかなかった。
『ニルヴァーナ』が、その意志へ応えた。
光が、ゆっくり両手へ集まる。
私は歌いながら、二振りの光のレイピアを顕現させた。
観客席から、さらに大きなどよめきが上がる。
彼らには、それすら舞台演出に見えているのだろう。
私は床を蹴った。
ヒールが舞台床を鋭く打つ。
深紅の布が、朱の花みたいに翻った。
閃光。
レイピアの切先が、AKUMAの腕を貫く。
悲鳴が響く。
けれど、核までは届かない。
AKUMAは歪んだ笑い声を上げながら、観客席へ向けて黒い靄を吐き出した。
「っ……!」
再び、観客達の瞳が濁った。