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【Dグレ】Twin Ray -灰の世界に響く歌-

第26章 【第二十五話】終幕なき夜・後編


喉の奥で、『ニルヴァーナ』が強く脈打った。


私は歌へ、力を込める。

澄んだ旋律が、劇場を覆う黒い気配へ触れる。


その瞬間。
青白い男の動きが、ぴたりと鈍った。


女優の背を締め上げようとしていた腕が、不自然に震える。


そして。

男の首が、あり得ない角度へ傾いた。


関節が軋む。
皮膚の下で何かが蠢く。


観客席から歓声が上がった。


誰もが、演出だと思っている。


いや。

思わされているのだ。


劇場中へ漂う黒い靄が、目の前で起きている異常さえ、“美しい悲劇の一幕”として受け入れさせている。


次の瞬間。
男の表面が、内側から裂けた。


人の形が、剥がれ落ちる。


その奥から現れたのは――歪な形をした、本物のAKUMAだった。


女優が短い悲鳴を上げ、舞台袖へ崩れるように逃げる。

舞台袖の暗がりで、トマが彼女を受け止め、すぐに奥へ引き込んだのが見えた。


「素晴らしい……!」

特等席から、支配人の歓喜に満ちた声が響く。


「これだ! この怯え! この絶望! この瞬間こそが、本物の悲劇だ!」

背筋に、冷たいものが走った。


観客達はなおも歓声を上げている。

けれど、その目は既に正常ではなかった。


誰かが、亡くした人の名を呟く。
誰かが、涙を流しながら笑う。

誰かが、舞台へ手を伸ばす。


「あなた……?」

「お母さん……そこにいるの……?」

「待って……私も、そちらへ……」


喉の奥で、『ニルヴァーナ』が激しく脈打った。


――これが、この舞台の能力。

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