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【Dグレ】Twin Ray -灰の世界に響く歌-

第26章 【第二十五話】終幕なき夜・後編


残されたのは、私と神田だけだった。

劇場前には、なおも熱狂した観客達が押し寄せている。


笑い声。
拍手。
期待。

その全てが、妙に空虚だった。



「……行くぞ」

低い声が落ちる。

振り返る。


神田が、不機嫌そうな顔でこちらを見ていた。


「着替えるんだろ」
「ええ」

私は小さく頷き、神田と共に劇場近くの宿へ向かった。


宿の一室で、私は団服を脱いだ。
絹の擦れる音が、薄暗い部屋へ静かに響く。


鏡の中に映るのは、深紅のドレスへ身を包んだ“歌姫”としての私だった。


喉元は、黒い刺繍の施された細いハイネックで覆われている。
その下から胸元へ向かい、雫型に肌を覗かせる深紅のシルク。

腰から裾へ流れる柔らかな布は、歩くたびに赤い波のように揺れた。


華やかで。
目を引いて。

あまりにも、戦場には不似合いな格好。


けれど、本当に守るべきものは隠されている。

黒い刺繍に覆われた喉の奥には、いつでも歌を解き放てる力がある。


身支度を終え、深く息を吸う。


その時。
扉の向こうから、低い声が落ちた。


「……終わったか」
「ええ」

返事をすると、扉が開く。


入ってきた神田が、私を見た。


その視線が、一瞬だけ止まる。


本当に、ほんの一瞬だけ。
けれど、その間が妙に長く感じられた。


神田の瞳が僅かに揺れ、すぐにいつもの鋭さへ戻った。

六幻の鞘が、低く鳴った。


「……その格好で前出る気か」
「そのための潜入でしょう?」

「分かってる」

被せるような声。


神田は苛立ったまま視線を逸らす。

「だから余計タチ悪ぃんだろ」


私は少しだけ目を瞬く。

「何が?」
「……何でもねぇ」

けれど、神田の眉間の皺は消えなかった。


私は思わず小さく笑う。

「そんな怖い顔しなくても大丈夫よ」

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