第3章 【第二話】次へ繋ぐ手
翌朝。
師匠は宿の裏の木陰で、もう酒瓶を傾けていた。
「師匠。聞きたいことがあるの」
「金ならねぇぞ」
「知ってます」
私は隣へしゃがみ込み、声を落とした。
「師匠は、女の人を落とす時、何をしてるの?」
師匠の手から、酒瓶が滑りかけた。
背後で、がしゃん、と桶の倒れる音がする。
振り返ると、水を汲んできたアレンが固まっていた。足元に水溜まりが広がっていく。
「……ティファ、今、なんて」
「ちょうどよかったわ。アレンも聞いて」
「なんで僕が!?」
「だって、守りたい人がいるんでしょう?」
アレンの顔から血の気が引いて、それから一気に赤くなった。
師匠は、私とアレンを順に見た。ゆっくりと、口の端が持ち上がる。ろくでもないことを考えている時の顔だった。
「……ほう」
「師匠なら詳しいと思って。性格は最悪なのに、行く先々で女の人に囲まれてるもの」
「おい」
「だから、何か秘訣があるはずでしょう?」
師匠は酒瓶を置き、わざとらしく顎をさすった。
「まずは間合いを詰めろ。壁に手でもついて、目ぇ見て口説け」
「間合いを、詰める」
……それなら、訓練で何度も教わった。
私は立ち上がり、アレンへ向き直る。
「こういうこと?」
一歩で距離を詰める。後ずさったアレンの背中が、宿の壁に当たった。横へ逃げかけた肩のすぐ脇に、手をつく。
「これで、逃げ道はないわ」
壁に手をついたまま顔を上げると、アレンが目を見開いて私を見下ろしていた。