第24章 【第二十三話】触れていい理由
扉の向こうから、木刀が空を切る鋭い音が聞こえていた。高い窓から差し込む朝日が、石造りの床に長く伸びている。冷えた空気に、木の匂いが混じっていた。
久しぶりの鍛錬場に、身体の奥が引き締まる。まだ、右肩に負担は掛けられない。今日は足運びと、左手を中心にした軽い調整だけのつもりだった。
「……やっと動けるようになったか」
壁際で、神田が木刀を肩に担いでいた。不機嫌そうな目が、こちらを見ている。
「……いたの?」
「見りゃ分かんだろ」
「相変わらず愛想がないのね」
神田は答えずに、また木刀を振り始めた。
壁際に置かれていた細身の木剣を手に取る。掌に、懐かしい重さが馴染んだ。右肩を庇いながら構えると、神田の眉が僅かに動いた。
「……怪我人が何してやがる」
「軽くなら、許可は出てるわ」
神田はしばらく、睨むみたいに私を見ていた。それから、鼻を鳴らす。
「左だけで来い。踏み込みだけ見てやる」
神田が床を蹴る。重い一撃が鍛錬場に響いて、咄嗟に左手の木剣を滑らせた。
速い。でも、迷いがない。
神田の剣筋はいつだって真っ直ぐだ。軌道だけなら、読みやすい。
一歩引いて、足を入れ替える。迫る木刀を半身で躱して、そのまま懐に入り込もうとした。
「甘ぇ」
足を払われた。視界が反転する。
床に叩きつけられる寸前、左腕を強く引かれた。勢いを殺されて、背中が床に着く。右肩に、衝撃は来なかった。
喉元に、木刀の切っ先が突き付けられる。