第21章 【第二十話】残り香は、まだ熱い
まだ少し赤い顔のまま笑うラビから、グラスを取り返そうとして――ぐらり、と視界が揺れた。
「っ、おい」
椅子から落ちかけた身体を、ラビの腕が受け止めた。とっさだったはずなのに、傷のある右肩には触れず、左側から支えられている。
近い。
「……ティファ?」
呼び掛けが、妙に遠く聞こえる。
頭がぼうっとして、肩の傷もじくじく痛む。身体が、鉛みたいに重かった。
「……らび」
無意識に、ラビの団服を掴む。
団服越しに、ラビの身体が強張るのが分かった。
構わず、その胸元に額を預ける。
……暖かい。
「……あー、これ駄目なやつさ」
頭の上で、溜息まじりの声がした。
「ティファ、限界きてる!?」
「顔真っ赤だ!」
「だから止めた方がいいって言ったんです!」
ざわめきの中で、椅子を引く音がした。
「ラビ、ティファを――」
アレンの声が、途中で裏返る。
「アレン……吾輩、天井が回っているのであるぅぅ……」
「えっ、ちょ、クロウリー!?」
頭の上で、ラビが小さく息を吐いた。
「悪ぃな、アレン。そっち頼むわ」
「でも――」
「ちゃんと部屋まで送る」
「うぅぅ、気持ち悪いぃ……」
「わっ、ちょっと、クロウリー! ここで吐かないでください!」
アレンの声が、慌てた足音と一緒に遠ざかっていく。
「ほら」
短い声と一緒に、身体がふわりと浮いた。
「っ……!」
どこからか、ひゅう、と口笛が飛んだ。頭の上で、ラビが「うるせぇ」と小さくぼやいた。なのに、私を抱える腕は驚くほど優しい。
ぼんやりしたまま、胸元に頬を預ける。心臓の音が聞こえた。やけに速い。
「……ティファ、行くぞ」
「ん……」
鼓動が近過ぎて、妙に落ち着かなかった。