第3章 【第二話】次へ繋ぐ手
私は窓の外へ視線を向けた。雨粒が硝子を伝って落ちていく。
「歩いたら、お母さんを置いていくみたいだったし……悲しくなくなったら、お母さんを忘れるみたいで」
アレンは何も言わず静かに聞いている。
「でも……歩いても、消えなかったわ」
私は手首へ結んだ銀の髪紐へ、そっと指を触れた。
「お母さんを失った痛みも。お母さんの声も。今も、ちゃんとここにある」
胸元へ手を添える。
「だから、アレンも……歩いていいの」
「でも、僕は……」
「忘れるために歩くんじゃない」
私は、彼の言葉を遮るように静かに続けた。
「抱えたまま歩くのよ。辛くても、苦しくても……それでも、生きるなら」
師匠のように、強く言い切ることはできなかった。
私自身、今も迷っているから。
それでも、アレンの足元から道が消えてしまわないように、言葉を差し出したかった。
アレンの瞳が、大きく揺れる。
「ティファは……苦しくないんですか」
「苦しいわ」
嘘はつかなかった。
「今でも、時々息ができなくなるくらい」
「それでも……」
「うん。それでも、歩いてる」
微笑もうとした。上手く笑えたかは分からないけど。
アレンの顔が、くしゃりと歪んだ。
「僕……」
喉から零れた声は、幼い子供のものだった。