第3章 【第二話】次へ繋ぐ手
「……すみません」
以前より、声は出るようになっていた。
けれど、その響きはまだ細く、どこか借り物のようだった。
私は隣へ立つ。
窓の外には、雨に滲む夜の庭が見える。
「眠れないの?」
尋ねると、アレンは左手を胸元へ抱え込んだ。答えが返ってきたのは、ずいぶん経ってからだった。
「……夢を、見ました」
「……マナの?」
アレンは小さく頷いた。
「僕を、呼んでいたんです」
その声が、震える。
「でも、僕が近付いたら……また、あの姿になって……」
アレンは途中で言葉を止めた。左手を握り締める指先が、白くなる。
「……師匠は、歩き続けろって言いました」
「うん」
「あれは……マナの言葉です。僕が、忘れちゃいけない言葉です」
彼の声を聞いて、必死に自分へ言い聞かせているのが分かった。
「でも……」
小さな声が、崩れる。
「歩いたら……マナを置いていくみたいで……」
胸が痛んだ。母の墓の前で、足が動かなくなった日のことを思い出す。
「……私もね」
アレンが、ゆっくりこちらを見る。
「母を失ったあと、師匠について歩くのが怖かった」