第3章 【第二話】次へ繋ぐ手
アレンが言葉を取り戻してからも、すぐにすべてが元通りになったわけではない。
夜になると、悪夢にうなされることがあった。一人で食事を摂ろうとして、手が震えて匙を落とす日もあった。
師匠に促されて屋敷の外へ出ても、少し歩くだけで息が苦しくなり、立ち止まってしまう。
それでも、アレンは歩こうとしていた。
師匠の言葉を、そのまま胸へ刻み込むように。
――立ち止まるな。
――歩き続けろ。
何度も転び、何度も顔を歪めながら、それでも前へ進もうとする。
私は、そんなアレンの少し後ろを歩くようになった。
手を引くことはしない。
彼が自分で歩こうとしているのに、勝手に支えるのは違う気がしたから。
ただ、必要な時にはすぐ手を伸ばせる距離にいた。
アレンも、私が傍にいることを拒まなくなった。
ある晩のことだった。
外は雨で、屋根を叩く雨音が暗い屋敷の中へ絶え間なく響いている。
私は台所から居間へ戻る途中、廊下の窓辺に小さな影を見つけた。
アレンだった。
寝間着の上に薄い上着を羽織っただけの姿で、冷たい窓へ額を寄せている。
「……アレン?」
声をかけると、彼の肩がわずかに跳ねた。
「こんなところにいたら、風邪を引くわ」