第21章 【第二十話】残り香は、まだ熱い
元の座席に戻っても、胸のざわめきは消えなかった。でも、それ以上に私を落ち着かなくさせている原因は、すぐ隣に座っているラビにあった。
窓枠に頬杖をついて、何事もなかったように外を眺めている。なのに、時折こちらに向けられる視線が、前とは明らかに違っていた。
隠していない。
もう、“ブックマンだから”という距離を装おうともしていない。
所在なさを誤魔化すように、膝の上の鞄を抱き直した。
「……手、冷てぇな」
びくり、と肩が跳ねる。ラビの指先が、私の手に触れていた。
「さっきの男のこと、気にしてんの?」
「ち、違……」
否定しかけて、言葉が詰まる。ラビは、じっと私を見ていた。
「……ならいいけど」
そう返す声が優しくて、気付いた時には、指を絡められていた。
「っ!? ラ、ラビ!」
慌てて周りを見る。
少し離れた席では、クロウリーがまた窓の外に目を輝かせていて、アレンはそんな彼に汽車の仕組みを説明していた。
誰も、気付いていない。
ラビだけが、悪戯っぽく笑っている。
「静かに。……バレるぜ?」
「だったら離して……っ」
「イヤ」
指を解くどころか、さらに深く絡めてくる。指先から、じわじわと熱が伝わってきた。
――本気にして、いいから。
診療所で落とされた声が、不意に耳に戻ってくる。
――ラビは、本気だ。
曖昧なまま、逃がしてくれる気なんてない。
ふいに、アレンがこちらを振り返りかけた。
とっさに手を引こうとしたのに、ラビの指が、きゅっと絡め直してくる。
アレンは、クロウリーに呼ばれてまた前を向いた。
ほっと息を吐いて、隣を睨む。
「アレンばっか、かっこつけてずりぃだろ」
ラビは窓の外を向いたまま、小さく笑った。
……ずるいのは、どっちよ。