第21章 【第二十話】残り香は、まだ熱い
「……なんだか、小さな子供みたいね」
思わず苦笑すると、ラビが肩を竦める。
「まぁ、今まで城に引きこもってたんだし、無理もねぇさ」
アレンも、小さく笑った。
「……僕も、ちょっと食堂車に行ってきます」
数分後、戻ってきたアレンは、両腕いっぱいに紙袋を抱えていた。向かいの席に座るなり、パンを両手に持って、交互に頬張り始める。
「……さっき朝飯食ったばっかだろ」
「ふぉれは、ふぉやつでふ」
「飲み込んでから喋れ」
パンばかりの紙袋を見て、ふと思い出した。鞄から、小さな瓶を取り出す。窓の光に透かすと、赤いジャムがきらりと光った。
「何ですか、それ」
「薔薇のジャム。駅の売店で見つけたの。リナリーにお土産」
答えながら、もう一度瓶を眺める。
「……でも、花のジャムって、どんな味がするのかしら」
「薔薇なら、香りはほぼそのまんまさ。甘くて、ちょっとだけ酸っぱい」
隣から、ラビが瓶を覗き込んだ。
「花のジャムなら、他にもいろいろあるぜ。スミレとか、タンポポとか」
「タンポポも?」
「おう。で、スミレの方は、昔どっかの国の王妃が気に入っててさ。毎朝パンに塗らせてたって話が――」
ごくん、とパンを飲み込んだアレンが、真剣な顔でラビを見た。
「……食人花も、ジャムに出来るんですかね?」
「出来るかぁ!」
思わず、吹き出してしまった。
一時間ほど経っても、クロウリーは戻ってこなかった。
「……遅いですね」
眉を寄せるアレンに、ラビが仕方なさそうに立ち上がる。
「クロちゃんの方向音痴っぷりなら、普通に迷子もありそうさ」
「探しに行きましょう」
頷いて、二人の後を追って席を立つ。右肩が鈍く疼いたけれど、今はそれどころではなかった。