第20章 【第十九話】もう譲れない
Side:アレン
その頃。
古城の一室で、僕はクロウリーの傍についていた。
崩れた窓から吹き込む明け方の風が、古いカーテンを揺らしている。ベッドに腰掛けたクロウリーは、元に戻った両腕を、まだ他人のもののように握っては開くのを繰り返していた。
毛布を掛け直しながら、何度も窓の外へ目が向いてしまう。
……ティファの傷は、大丈夫だろうか。
ラビだって、額から血を流していた。
でも、頭から離れないのは、別のことだった。
――……ラビ。
エリアーデに見惚れるラビを呼んだ、あの冷たい声。レイピアを握る指先まで、白くなっていた。
ティファが、誰かのことであんな声を出すなんて。
……こんな時なのに、僕は何を考えているんだ。
左腕を、握り締めていた。
「……さっきから、窓の外ばかり見ているのであるな」
ぽつりと声を掛けられて、はっと顔を上げる。
「二人が気になるのであろう……吾輩のことはいい。行ってくるといいのである」
「……いえ」
首を振っていた。
「クロウリーを、一人にはできませんから」
嘘ではなかった。ただ、それだけでもなかった。
行けば、きっと見てしまう。
ラビの隣で、僕の知らない顔をしているティファを。
今はただ、それが辛かった。
「……伝えたいことがあるのなら、会えるうちに伝えておいたほうがいいのである。吾輩は……もう、エリアーデに会えぬから」
返事が、できなかった。
書庫で言いかけた言葉の続きを、僕はまだ持ったままだった。
伝えたら……ティファはきっと、困った顔をする。