第20章 【第十九話】もう譲れない
ラビは、きょとんと瞬きをした。それから、少しだけ視線を落とす。
「記録から零れたもんばっか拾おうとすっからかな……誰も覚えてねぇようなもんまで」
俯いた横顔に、ふっと影が落ちた。
「オレは、そういうの置いてく側だからさ……お前の隣にいると、置いてきた自分まで、拾ってもらえる気がした」
ラビが、ゆっくりと顔を上げた。
「だから、かもな……。いつの間にか、目で追ってたんさ」
――目で、追う。
気付けば、私もいつも、ラビを探していた。
掴まれたままの手を、そっと握り返す。
疲れた、なんて言ったくせに。心臓の音が、うるさい。
「私は――」
――僕は、ティファが。
「私、は……」
あの時の、アレンの顔が浮かんだ。
「……っ」
言葉の続きが、出てこなかった。
ラビの目が、ほんの一瞬だけ揺れる。掴まれていた手が、ふっと緩んだ。
「……本気にして、いいから」
伸びてきた手が、そっと私の頬を包む。
「だから……もう一回、考えてくんねぇか」
手のひらが、温かかった。気付けば、小さく頷いていた。
ラビが、ほっとしたように笑う。頬から離れた手が、ぽん、と頭に乗った。
「……あと。妬いてくれたのは、ちょっと嬉しかったさ」
「……っ、妬いてなんか」
「はいはい」
髪を一度だけくしゃりと撫でて、手が離れていく。
「……おやすみ、ティファ」
立ち上がったラビは、扉の前で一度だけ振り返ってから、病室を出ていった。
扉が閉まる。
頭に残った手のひらの重さが、いつまでも消えなかった。
――好きなんさ、お前が。
その声が、何度も耳の奥で繰り返された。