第19章 【第十八話】偽物じゃなかった愛~クロウリー編③
ゆっくりと、前へ踏み出す。
「だが――醜いお前は見たくない」
床を蹴った。一直線に、エリアーデへ突っ込む。
「っ!!」
エリアーデが無数の泡玉を放った。避けなかった。泡玉が触れるたびに水分を奪われ、腕が萎み、脚が干からびていく。
「アレイスター!!」
その叫びが届く頃には、私の身体はほとんど干からびていた。
音もなく石床に倒れ込む。
かろうじて残った目に、変身を解くエリアーデが映った。紫の装甲が消えて、人の姿に戻っていく。
「……終わった」
虚ろな顔で、遠くを見るように目を細めている。私がまだ聞いていることに、気付いていない。
「……私がずっとしてみたかったことはね。人間の女どもが、一番キレイになる方法」
月光が、金色の髪を照らした。
「どんなに私より劣ってた女でも、それをすると眩しいくらいキレイになったから。……でも、どんなに望んでも、私には出来なかった」
苦く笑う。
「だって、あたしはAKUMAだから。近付いた男を、殺してしまうのよ」
干からびた身体の奥で、何かがずるりと動いた。
エリアーデが目を見開く。反応するより早く、最後の力で迫って、その首元に牙を沈めた。
「――ぁ……」
腕の中で、エリアーデの身体が震えた。
「なんだ……まだ……動けたの……?」
牙を沈めたまま、薄くなった腕を、彼女の背中に回す。
「あなたを……」
泣き出しそうな声だった。
「愛したかったのにな……」
エリアーデの身体が、光の粒になって崩れていく。淡い輝きは、壊れた窓から吹き込む風に乗って、雪のように舞い散った。
部屋には、風の音だけが残った。
私は、その場に膝をついたまま動けなかった。