第19章 【第十八話】偽物じゃなかった愛~クロウリー編③
周囲では花の群れが暴れ狂い、蔓の向こうからエクソシスト達の叫び声が途切れ途切れに聞こえてくる。
私の目にはもう、エリアーデしか映っていなかった。
エリアーデが宙へ浮かび上がり、無数の泡玉を生み出す。月光を受けて煌めくそれは、幻想的ですらあった。
泡玉のひとつが、近くの花に触れた。じゅわり、と嫌な音がして、巨大な花弁がみるみる水分を奪われ、黒く干からびていく。
視線を戻すより早く、別の泡玉が左腕に触れた。
じゅっ、と音を立てて、腕から水分が抜けていく。みるみるうちに痩せ細って、干からびた皮が、紙のようにひらりと垂れ下がった。
痛みは、遠かった。ただ静かに、自分の腕を見下ろす。
「……この玉は、固体の水分を蒸発させ、封じ込めるものか」
崩れていく腕から目を上げて、萎れた花を見た。
「くだらんな。……エリアーデ。おじい様の花を傷付けた罪は重いぞ」
「フン」
エリアーデが鼻で笑う。禍々しい外殻が、ぎしりと軋んだ。
「発動してハイになっても、みみっちい所は変わんないんだから。この引きこもり」
その一言が、刺さった。
「こんな花、本当はどうでもいいんじゃないの!? 外界に行けないのを全部じじぃのせいにしてさ! 自分が城を出て傷付くのが怖いだけでしょーが!!」
崩れた部屋に、叫びが響き渡った。
「ブァーカ!! 臆病者!! お前なんか、この城で朽ち果てるのがお似合いよ!!」
叫ぶ声の最後が、わずかに上擦った。
壊れた壁から、冷たい夜風が吹き抜ける。私はしばらく黙ったまま、エリアーデを見つめていた。
「ああ……お前となら、そんな生涯を送ることになってもいいと思っていた」
宙に浮いていたエリアーデが、ぐらりと揺れた。