第19章 【第十八話】偽物じゃなかった愛~クロウリー編③
「ぐ……っ!」
首元を押さえ付けられて、喉が締まる。息がかかるほど近くで、紅い唇が笑っていた。
「どうして邪魔するの?」
甘い声のまま、瞳だけが冷たく光っている。
「……貴方を……殺す理由は……ありません……」
左目が、鈍く疼いた。ロードにやられた目は、まだ戻っていない。この人の中に何があるのか、今の僕には見えない。
「優しいのね」
白い指先が、僕の頬を撫でる。
「でも、貴方は危険だわ」
床から這い上がった蔓が腕を締め上げ、胸元へ食い込んだ。息が出来ない。視界が、ゆっくりと霞んでいく。
「さようなら、エクソシスト」
エリアーデが、手を振り上げた。
ドクン、と。
左腕が、僕の意思とは関係なく動いた。
振り下ろされた一撃を強引に受け止める。白銀の火花が散ると同時に、左目へ焼け付くような痛みが走った。
「ぁ……っ!!」
視界が歪む。闇の奥から、声が響いた。
『タダイマ、アレン』
『闇ガ戻ッテキタヨ』
閉ざされていた左目が、ゆっくりと開く。
世界が変わった。
美しい女の人の姿の、さらに内側。禍々しい器の中で、ひとつの魂が黒い鎖に縛られて蹲っている。声にならない声で、泣いていた。
顔から、血の気が引いていくのが分かった。
エリアーデが、初めて小さく後退る。
「な……」
絡み付いた蔓を左腕で引き千切って、ゆっくりと立ち上がる。
「……前言撤回です」
左腕のイノセンスが、白銀の光を放った。
「貴方と戦う理由が出来ました」
遠くで凄まじい轟音が響いた。城全体が低く軋み、エリアーデの肩がびくりと跳ねる。
「……アレイスター」
その名を呼ぶ声に、初めて焦りが滲んでいた。