第19章 【第十八話】偽物じゃなかった愛~クロウリー編③
Side:アレン
崩れた回廊を、僕は駆けていた。
紫の裾が、闇の先でひらりと翻る。追えば追うほど、エリアーデの姿は城の奥へ遠ざかっていった。
「待ってください!」
声は、湿った石壁に跳ね返るだけだった。
不意に、エリアーデが肩越しに振り返る。紅い瞳が僕を捉えて、くすりと笑った。
背筋が、ぞわりと粟立つ。
――罠だ。
分かっていても、足は止まらなかった。
さっき、あの人は平気な顔で人の身体を花へ放り込んだ。しかもそれは、AKUMAだった。放っておけるはずがない。
一歩踏み込んだ途端、床を這っていた蔓が一斉に襲い掛かってきた。
発動させた左腕で薙ぎ払う。その隙を狙ったように、横の壁が轟音とともに爆ぜた。
「うわっ!?」
石片の中から飛び出してきた巨大な花を、咄嗟に左腕で受け止める。衝撃を殺し切れずに、古びた木扉ごと奥の小部屋へ叩き込まれた。
「く……っ」
背中から床に打ち付けられて、一瞬、息が詰まった。どうにか身体を起こす。
古い書庫のような部屋だった。半ば崩れた本棚が天井まで届き、床には朽ちかけた書物が散らばっている。割れた窓から月光が細く差し込んでいた。
壁に映った僕の影の後ろに、もうひとつ影が伸びていた。人の形なのに、輪郭がどこか歪んでいる。
「捕まえた」
背後から、甘い声が落ちた。
振り返る間もなかった。一気に距離を詰めたエリアーデに、本棚へ叩き付けられる。崩れた本が、雪崩のように降ってきた。