第18章 【第十七話】歌声は吸血鬼を惑わせる~クロウリー編②
「平気。少し、くらっとしただけ」
それ以上、ラビの顔を見られなかった。
アレンは私達を一度だけ見てから、墓標へ視線を戻した。
「ティファがそう感じるなら……ここに埋められているのは、人間じゃないのかもしれません」
さっきの花に浮かんだ、黒い紋様が頭を過る。
アレンが墓標の前に膝をついた。
「確かめましょう」
「……墓荒らしとか、後で絶対怒られるやつさ」
ぼやきながらも、ラビはもう鉄槌を握り直していた。それから、ちらりとこちらを見る。
「見たくねぇなら、下がってろよ」
さっきあんな態度を取ったのに、声はいつも通り優しかった。
「……平気」
それしか、言えなかった。
アレンの左腕が、冷たい土を抉る。鈍い音とともに、古びた棺が姿を現した。
棺の隙間から漂ってきたのは、死臭ではなかった。冷たい金属と、焦げた油の匂いだった。
ぎぃ、と軋んで蓋が開く。
中に横たわっていたのは、ひしゃげた金属の骨格と、黒く焼け焦げた外殻だった。
「……AKUMA」
アレンの声が、墓地に落ちた。
ラビが無言で、隣の墓へ鉄槌を振り下ろす。砕けた土の下から覗いたのも、同じ残骸だった。その隣も、そのまた隣も――九つ目の墓まで、同じだった。
「……全部かよ」
魂がひとつもなかったのは、ここに眠っているのが人ではなかったからだ。
「クロウリーが襲っていたのは、人間じゃない」
アレンが、険しい顔で棺を見下ろす。
「AKUMAだけを、狩っていたんです」
吸血鬼に襲われた、九人の犠牲者。その全員が、AKUMAだった。
「食べなさい、お花たち」
――そう言って微笑んだ紅い唇が、頭を過った。