第18章 【第十七話】歌声は吸血鬼を惑わせる~クロウリー編②
「ティファ、こっちだ! ここはもう保たねぇ、外に出るさ!」
痙攣する花が壁をのたうつたび、天井から石の欠片が降ってくる。ラビに腰を抱き寄せられて、そのまま瓦礫の間を走り抜けた。
回廊の突き当たりの扉を蹴り開けると、冷たい夜風が吹き込んできた。
城の裏手だった。月明かりの下に、墓標がいくつも並んでいる。
足を踏み入れた途端、息を呑んだ。
「……何、ここ」
静か過ぎた。
墓地なら、眠る人の残した気配がある。悲しみや、誰かを想う消えかけた温度が、土の下から微かに滲んでくるはずだった。
なのに、ここには何もない。これだけ墓が並んでいるのに、残り香ひとつ感じられなかった。
どれだけ意識を澄ませても、送るべき魂がどこにも見つからない。
「……いない」
掠れた声が漏れた。ラビとアレンが、同時に振り返る。
「ここ、お墓なのに……誰も、いない」
「どういうことですか?」
「分からない。でも、魂の残り香がひとつもないの」
こんなことは、初めてだった。
言い終えた途端、鼻の奥に残っていた甘い香りが遅れて身体を揺らした。足元がふらつく。
「ティファ!」
伸びてきたラビの腕が、倒れかけた身体を抱き留めた。
「しっかりしろ! まだ花粉が残ってんのか!?」
「……大丈夫」
言いながら、ラビの腕から身体を離していた。
「……ティファ?」
ラビの手が、宙に残ったまま止まっていた。