第18章 【第十七話】歌声は吸血鬼を惑わせる~クロウリー編②
「……え?」
振り向くと、ラビの目はすっかりその人に釘付けになっていた。
……ついさっきまで、寝言で私の名前を呼んでいたくせに。
胸のあたりが、ちくりとした。
レイピアを握る指に、勝手に力が籠もる。
「……ラビ」
自分で思っていたより、冷たい声が出た。ラビがはっと我に返る。
「あ、いや、ティファ! 違うんだって!」
「ラビ! 何あんなのに興奮してるんですか! 僕達、今食われかけてるんですよ!?」
「いや、だから違っ……!」
アレンに詰め寄られて、ラビが両手を振り回す。
女の人の笑みが、すっと消えた。
「……『あんなの』ですって?」
静かな声だった。呼応するように、食人花達がざわりと蠢く。
その人は、足元に転がっていた村人の身体を無造作に持ち上げた。
ぽい、と放られた身体を巨大な花が一息に呑み込む。骨の砕ける音が、回廊に響いた。
「食べなさい、お花たち」
甘い声のまま、紅い瞳が私達を一瞥する。
「……フンだ」
紫の衣装が、闇の奥へ溶けるように見えなくなった。
残された回廊に、花が何かを噛み砕く音だけが続いている。
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ラビが、恐る恐るこちらを見た。
「怒ってる?」
「別に」
考えるより先に、声が出ていた。
「……やっぱり、誰にでも言うのね」
ラビの顔が引き攣る。
「言ってねぇって! あれは花粉! 花粉で頭ぼーっとしてたんさ!」
「花粉なら、僕も吸ってますけど」
「アレンは黙ってろって!」
慌てて前へ回り込んでくるラビから、ふいと顔を背ける。
「ティファ~……」
情けない声に、アレンが深々と溜め息を吐いた。
不意に、花がびくりと大きく痙攣した。
飲み込んだものを吐き出そうとするように、花弁が何度もうねる。その表面に、黒い紋様がじわりと滲み出した。
アレンの顔から、表情が消える。
「……ペンタクル。AKUMAの血に、やられてる」
ラビの情けない顔が、すっと引き締まる。
花弁の上で、黒い紋様がじわじわと広がっていく。
さっき、あの花が呑み込んだのは――