第18章 【第十七話】歌声は吸血鬼を惑わせる~クロウリー編②
もう一度、ラビの肩を強く揺さぶる。
「ラビ、起きて。お願い」
ラビの眉が、ぴくりと動いた。
「……ん……もーちょい、近く……」
「起きなさい!!」
とうとう叫ぶと、翠の瞳がぱちりと開いた。
「……へ?」
目の前の私と、こちらをじとっと見下ろすアレン。それから、ラビの視線が自分の手元へ落ちる。
私のスカートの裾を、しっかり握り締めていた。
ラビの顔がみるみる赤くなる。
「……いや、これは違うさ」
「何がですか」
「寝ぼけてただけさ!」
「寝言、全部聞こえてましたよ」
「忘れろ!!」
その背後から、大口を開けた花が覆い被さってくる。
「満!!」
照れ隠しみたいな勢いで、ラビの鉄槌が巨大化した。轟音とともに花が壁ごと潰れる。
砕けた花弁の奥から甘い粉が舞い上がった。
「……っ」
吸い込んだ途端、指先から力が抜けた。
レイピアの光が揺らいで膝が僅かに沈む。肌の内側で感じていたはずの気配が、霞がかかったようにぼやけていく。
「ティファ!」
アレンの声に返事をするより先に、回廊の奥から靴音が響いた。
――コツ、コツ。
「こら!! そこの人間どもー!! 何してる!! この子たちはアレイスター様の大事な花よ!」
甘く、艶やかな声だった。
燭台の灯りの中に、紫の衣装を纏った女の人が立っていた。白い肌に、紅い唇。
薄暗い回廊にいるだけで、空気ごと塗り替えてしまうような美しさだった。
私は、ふらつく足で体勢を立て直す。
――この人から、何かを感じる。
なのに、それが何なのか掴めない。甘い匂いが、まだ鼻の奥に残っている。
「――ストラーイクッ!!」
隣で、ラビが叫んだ。
「もろタイプさ!!」