第18章 【第十七話】歌声は吸血鬼を惑わせる~クロウリー編②
しゅるっ、と何かが擦れる音がした。
足首に、細い糸のようなものが絡み付く。見回した先で、床からも壁からも巨大な花が一斉に口を開けた。ぬらりと光る花弁の内側に、牙のような棘がびっしりと並んでいる。
「食人花!?」
「なんでこんな所に!?」
アレンが左手を掲げる。白銀の光が迸り、巨大化した左腕が、迫ってきた花を正面から叩き潰した。
潰れた花弁が床に散る。なのに、壁際ではもう次の花が開き始めていた。
「キリがない……!」
私もレイピアを顕現させ、足首の蔓を斬り払う。
その足元で、ラビは。
「すぅ……」
普通に寝ていた。しかも、妙に幸せそうな顔で。
「ラビ! 起きて!」
肩を揺さぶっても、ぴくりともしない。
「ラビ!! 寝てる場合じゃありませんよ!!」
花を薙ぎ払いながらアレンが叫ぶ。
「ん……ティファ……」
寝言だった。
「それ……反則……ずりぃって……」
私も、アレンも、一瞬固まった。
その隙に伸びてきたラビの手が、私のスカートの裾をぎゅっと掴む。
「行くなってぇ……」
一気に顔が熱くなった。
「なんで寝てる時までそうなんですか、この人……!?」
アレンが、花を殴り飛ばした姿勢のまま叫ぶ。
裾を掴む指をほどこうとして、思いのほか力が入っていることに気付いた。
「ティファ、後ろ!」
振り向くより先に、背後へ迫っていた蔓をアレンの左腕が叩き潰した。
「今は照れてる場合じゃありません!」
「照れてないってば!」
言い返した声が、少し裏返った。