第18章 【第十七話】歌声は吸血鬼を惑わせる~クロウリー編②
城館の扉を押し開けると、湿った冷気が肌にまとわりついた。
薄暗い廊下に、赤黒い絨毯がまっすぐ奥へ伸びている。壁には古い肖像画が並び、燭台の火が揺れるたび、描かれた顔が笑ったように見えた。
「……趣味悪ぃな」
ラビがぼやきながら辺りを見回す。アレンは何も言わずに、廊下の先を睨んでいた。
私は、肌の内側へ意識を澄ませた。
城の中には、甘ったるい匂いが薄く籠もっていた。中庭で感じた気配を辿ろうとしても、その匂いに紛れて、輪郭が滲んでしまう。
「ティファ、どうですか?」
「……奥にいるのは分かる。でも、はっきりしない」
アレンが眉を寄せる。ラビは腰の鉄槌に手を掛けたまま、小さく舌打ちした。
「目も気配も当てになんねぇって、最悪の城さ」
ふわり、と甘い匂いが急に濃くなった。
花のような、妙にうっとりする香りだった。足元を見ると、床板の隙間から白い煙が細く立ち上っている。
「あれ、なんか……」
一番近くにいたラビの身体が、ふらりと揺れた。
「ラビ!?」
どさっ、と鈍い音がして、ラビがその場に崩れ落ちる。駆け寄ろうとした私の口元を、アレンが咄嗟に掌で覆った。
「ティファ、吸わないで!」
アレンも、自分の袖で鼻を押さえている。白い煙は、床を這うようにじわじわと広がっていった。
息を止めて見下ろすと、ラビは仰向けのまま、規則正しい寝息を立てていた。
……寝てる。