第14章 【第十三話】夜明けまで、この手を
「ベッド使え」
不意に、ラビが低く言った。
「え?」
「右腕その状態で、椅子に座ったまま寝るとか論外だろ」
有無を言わせない声音だった。
私は思わず目を瞬く。
「……ラビは?」
「オレは椅子で十分さ」
即答。
けれど、彼の顔色はまだ悪い。
火判の反動で呼吸も浅く、包帯の巻かれた腕は微かに震えていた。
「でも――」
「いいから寝ろ」
低い声。
けれど、怒っているわけではない。
むしろ、私が無理をして動くことの方を恐れているように聞こえた。
私は少しだけ迷ってから、観念したようにベッドへ身体を預ける。
その瞬間、右腕へ鋭い痛みが走った。
「っ……」
ラビが即座に眉を寄せる。
「だから言っただろ」
そう言いながら、彼は無意識みたいな自然さで毛布を引き寄せ、私の肩へ掛けた。
その手つきが、妙に優しい。
「……過保護」
思わず小さく零す。
するとラビは何も返さず、毛布の端をもう一度だけ直した。それから、椅子をベッドの横へ引き寄せ、深く腰掛ける。
近い。
手を伸ばせば、触れられる距離。
なのに、彼はそれ以上近付こうとはしなかった。
病室へ、暖房の低い音と雨音だけが静かに流れている。
目を閉じようとすると、あの遊園地の光景が脳裏へ浮かんだ。
灰色に歪んだ空間。
冷たい触手。
耳元で軋んだ声。
――その喉は壊せぬ。だが、手足の一本程度なら問題あるまい。