第3章 【第二話】次へ繋ぐ手
「……アレン」
師匠は、少し声を落とした。
「一口でいい。食え」
アレンは動かなかった。
長い沈黙のすえ、ほんのわずかに唇が開く。
師匠は黙って、そこへ匙を運んだ。
……少しでいいから、食べてほしい。
私もアレンの口元を見つめていた。
師匠は飲み込むまで急かさずに待ち、二口目を嫌がると、舌打ちしながら手を止めた。
……私が食事を拒んだ時、師匠もこんな気持ちだったのだろうか。
私はその日から、アレンの部屋へ運ぶ水や布を用意するようになった。目を覚ました時に水が切れていないように、熱を出したらすぐ布を渡せるように、何度も確かめた。
アレンが私を見ることはほとんどなかった。
けれど、ある夜。
水差しを取り替えようと部屋へ入った時、彼の瞳が一度だけ、私の手元へ動いた。
小さな銀色の髪紐。
母の形見として、いつも手首へ結んでいたもの。
アレンはそれをじっと見つめて、すぐにまた視線を伏せた。
何も言わなかったけど、その一瞬だけは、彼がこちら側へ戻ってきたように思えた。