• テキストサイズ

【Dグレ】Twin Ray -灰の世界に響く歌-

第14章 【第十三話】夜明けまで、この手を



「名前も、年齢も、家族のことも答えられません。問い掛けへの反応も極めて薄い。教団から提供されている検査器具にも、精神へ強い干渉を受けた痕跡が出ています」

医師はカルテへ視線を落とした。


「異常空間へ晒された影響でしょう。どれほどの時間、あの状態で留め置かれていたのかは分かりませんが……失われた記憶が戻るかどうかは、今の時点では何とも言えません」

私は静かに視線を伏せた。


命は助かった。
存在も、繋ぎ止められた。

それでも。

完全には、届かなかった。


もっと早く見つけられていたら。
もっと強く、私の歌が届いていたら。

そんな考えが、胸の奥へ沈んでいく。


その時だった。
不意に、頭へ温かな重みが落ちた。


「……考え込み過ぎさ」

低い声。

はっとして顔を上げる。


ラビの大きな手が、私の頭へ軽く触れていた。

いつもの軽薄な笑みではない。

火判の反動で掠れた声のまま、彼は静かに続ける。


「生きてんだろ、あいつ」

翠の瞳が、真っ直ぐこちらを見る。

「お前が繋いだんさ」


その声音には、不思議なくらい迷いがなかった。

私は一瞬、言葉を失う。


ラビは撫でていた手を離しかけて、けれど最後に一度だけ、慰めるように銀髪を優しく梳いた。


「……だから、そんな顔すんな」

胸の奥が、少しだけ熱くなる。


どうして、彼にそう言われるだけで、沈んでいた痛みが僅かに軽くなるのか。

自分でも、まだ分からなかった。
/ 1033ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp