第14章 【第十三話】夜明けまで、この手を
「近くに、教団の協力病院があります」
少年を背負ったトーマスが、息を切らしながら振り返る。
まだ顔色は青い。
遊園地で目にしたものが、身体の奥へ焼き付いたままなのだろう。
それでも、彼は必死に声を整えていた。
「本部へ戻るより、そちらへ向かった方が早いです。まずは応急処置を受けてください」
ラビが短く頷いた。
「……分かった」
掠れた声だった。
トーマスの背中では、保護した少年が力なく揺れている。
目は開いている。
けれど、その瞳には何も映っていなかった。
名前を尋ねても。
声を掛けても。
肩へ触れても。
何一つ、反応は返ってこなかった。
遊園地を離れ、人気のない街道をしばらく進む。
やがて濃い霧の向こうへ、古びた煉瓦造りの建物が見えてきた。
小さな地方病院だった。
入口のランプだけが、湿った夜道へ淡い明かりを落としている。
「こちらです」
トーマスが扉を押し開けた瞬間、消毒液の匂いが鼻を掠めた。
暖房の熱気が、冷え切った身体へじわりと広がる。
その瞬間だった。
張り詰めていた糸が切れたみたいに、視界がぐらりと揺れた。
「……っ」
足元が崩れる。
右腕へ鋭い痛みが走り、息が詰まった。
倒れる。
そう思った瞬間、強い力が身体を引き寄せた。
「ティファ!」
ラビだった。