第16章 【第十五話】順番待ちの恋
――目で、追う。
それだけで、好きだと分かるものなのだろうか。
ふと見ると、アレンの耳の先が、少しだけ赤くなっていた。ごまかすように、頬を掻いている。
「……あ、そういえば。ジェリーさんが、今度ショートブレッドを焼いてくれるそうですよ。この前の話をしたら――」
書庫の奥から聞き慣れた声がした。
誰かと資料を探しているらしい。本に目を落としたまま、紙の端をなぞっていた指が、止まった。
「ラビ、探してる資料これ?」
「んー、多分それ」
明るい女の人の声に、いつもの軽い調子が返る。二人分の笑い声が、書架の向こうで重なった。
何でもない会話なのに、耳が勝手にラビの声ばかり拾ってしまう。すぐ向かいにいるアレンの声が、遠かった。
「……ティファ?」
「な、なに?」
「……僕の話、聞いてました?」
「え? あ……何の話だったかしら」
「ショートブレッドの話です」
「……ごめんなさい」
「いいですよ。ちゃんと、ティファの分も取っておいてもらいますから」
アレンは笑って本に目を戻した。
書庫の奥で、また女の人の声がした。
「ねえ、今度の休み、街の買い出し付き合ってよ」
「パス。今、それどころじゃねぇんさ」
その一言に、なぜか、ほっとした。
……どうして、ほっとしているんだろう。
――気付いたら、目で追ってました。
さっきのアレンの声が、今の自分に重なりかけて、慌てて読んでもいないページをめくった。