第16章 【第十五話】順番待ちの恋
「ラビのこと、気になりますか?」
顔を上げると、アレンがこちらを見ていた。銀灰色の瞳が、真っ直ぐ私を映している。
穏やかな声なのに、胸の奥を撫でられたみたいに、どきりとした。
「別に、そういう訳じゃ……」
うまく言葉にならない。
アレンの視線が一度、書架の向こうへ向く。さっきまでラビの声がしていた方へ。
それから、私へ戻ってきた。
「……そうですか」
小さく笑ったのに、その顔はどこか寂しそうだった。
「……最近、少し焦ってるんです」
「焦る?」
「その人が、僕の知らないところへ行ってしまう気がして」
ぽつりと零れた言葉に顔を上げると、アレンがまっすぐこっちを見ていた。
本の上に置かれた指が、きゅっと握られる。
「僕は、ティファが――」
「おーい、アレン」
軽い声が、書庫に響いた。
資料を片手にラビがこちらへ歩いてくる。その右手からいつの間にか包帯が取れていた。
言いかけたまま止まったアレンと固まっている私を見て、ラビの足がぴたりと止まった。
「……悪ぃ。邪魔した?」
少しだけ気まずそうに頭を掻いてから、手元の資料を持ち上げた。
「コムイが呼んでる。お前ら二人もだってさ。……クロス元帥絡みらしい」
「「師匠の?」」
アレンと、声が重なった。
任務。しかも、師匠。
その一言で、空気がふっと切り替わる。アレンが本を棚へ戻し、私も立ち上がった。
「……行くぞ」
ラビは先に背を向けて、歩き出した。
書庫を出て、三人で長い廊下を歩く。三人分の足音だけが、石の床に響いていた。
――僕は、ティファが。
さっき途切れた言葉が、まだ耳に残っている。
なのに、気付けば私の目は、前を歩く赤い髪を追っていた。