第16章 【第十五話】順番待ちの恋
右腕の三角巾が外れて、三日が経つ。医療班からも、ようやく任務に戻っていいと言われていた。
その日も、書庫は静かだった。
机に広げた本へ目を落としているのに、文字が少しも頭に入ってこない。何度同じ行を追っても、意味だけがすり抜けていく。
「……ティファ? さっきから、全然ページ進んでませんよ」
いつの間にか、アレンが机の向かいに立っていた。左目には、まだ包帯が巻かれている。困ったように笑っている。
「……そんなことないわ」
「ありますよ」
アレンは手近な棚から一冊抜き出して、向かいの椅子へ腰掛けた。
しばらく、ページをめくる音だけが続く。
それが、不意に止まった。
「何か、ありました?」
心臓が跳ねた。思わずアレンを見ると、慌てる様子もなく首を傾げている。
「最近、少し変なので」
アレンはそれだけ言って、本へ目を戻した。
私は、手元の本の端を指でなぞる。
「……ねえ、アレン。前に、大切な人がいるって言ってたわよね」
ページをめくりかけていたアレンの指が、止まった。
「……言いました、けど」
「その人のこと、好きだって……どうやって分かったの?」
「……急に、どうしたんですか」
「本で読んだの。女の子が、すぐに好きだって気付くお話。……私には、それがよく分からなくて」
アレンは少し考えるみたいに、机へ目を落とした。
「……僕の場合は、ですけど」
「うん」
「気付いたら、目で追ってました。どこにいても」