第13章 【第十二話】記録に残らない熱
「お前なら、必ず手を伸ばす」
AKUMAは続けた。
「消えかけた生者が目の前にいれば、喉を裂いてでも歌う。自分が危険に晒されようと、決して見捨てられぬ」
胸の奥を見透かされたようで、息が詰まった。
けれど、歌は止めない。
止められるはずがない。
少年はまだ生きている。
旋律の切れ目に、一言だけ落とした。
「……最低ね」
AKUMAが、愉しげに笑った。
「だが、現にお前は来た」
黒い触手が、濡れた石畳の上でゆらりと持ち上がる。
「そして、歌った」
ラビの、鉄槌を握る手に、ぎり、と力が入る。
「……てめぇ」
低い声だった。
いつもの軽さなど、一片もない。
「その子を餌にして、ティファをここまで引っ張り出したってことか」
「そうだ」
AKUMAはあっさりと肯定した。
「余計な連れがいたところで、結果は変わらぬ。邪魔ならば、ここで壊せばよい」
ラビの肩が、僅かに揺れた。
怒りを堪えるように。
けれど、彼はまだ踏み込まなかった。
私の歌が続いている。
少年が、まだ助かり切っていない。
そのことを分かっているからこそ、衝動を押し殺し、私の前へ立っている。
「……ティファ」
振り返らないまま、ラビが低く告げる。
「そいつから目ぇ離すなよ」