第15章 【第十四話】言いかけた熱
Side:ティファ
翌日の夜。
夕食を終え、汗を流した後、借りていた本を返しに書庫へ寄った。
高い本棚の間で、返す本を上の段へ戻そうと左手を伸ばす。あと少しが、届かなかった。
横から伸びてきた手が、私の手から本を抜き取って、棚の奥へ押し込んだ。
ラビの、左手だった。
「……届かねぇなら、言えよ」
「ありがとう。……ラビも来てたのね」
「ん。調べもん」
奥の机へ戻るラビの後を、なんとなく追う。
机の上には、山のような資料が広げられていた。椅子に座り直したラビは、慣れない左手で羽ペンを握る。
「昨日のお昼、私、何か変なこと言った? ラビ、すごくむせてたから」
「……別に」
それきり、ラビは資料へ目を落としてしまう。羽ペンの先は、紙の上で止まったままだった。
沈黙の中で、壁の時計の音だけがやけに大きく響く。
目を向けると、針は九時の少し前を指していた。
「いけない、もうこんな時間」
私は踵を返した。
「アレンが来ちゃうから、また明日ね」
振り返るより先に、左手首を掴まれた。
椅子の脚が、床を擦る。
立ち上がったラビに押されるように、一歩下がる。
……っ!
背中が本棚に当たり、顔のすぐ横で、棚板が小さく軋んだ。
ランプの灯りが、ラビの影に遮られる。
――逃げ場が、なくなっていた。