第15章 【第十四話】言いかけた熱
その日の午後も、私は修練場へ足を運んでいた。
鍛錬をするつもりではなかった。ただ、誰かの剣戟の音を聞いていれば、少しは頭が静かになる気がしたのだ。
「……また来たのか、お前」
振り返ると、修練場の中央で、木刀を肩に担いだ神田が立っていた。
「身体が、鈍ってしまいそうだったから」
「怪我人が言う台詞じゃねぇな」
呆れたように言いながら、追い返そうとはしない。
神田はそのまま木刀を構えた。鋭い踏み込みと、空気を裂く硬い音。私は壁際の石柱に寄りかかって、その動きを目で追った。
数度、空を斬るように打ち込むと、神田は不意に手元の木刀をこちらへ放った。
反射的に左手を伸ばし、柄を受け止める。
「見てるだけで強くなれんなら、誰も苦労しねぇ。片手でやれ」
「相変わらず、無茶を言うのね」
「お前にだけは言われたくねぇ」
思わず笑って、左手で柄を握り直した。右腕は三角巾に吊ったまま、ぎこちなく構えを作る。重心が定まらない。いつもなら身体が覚えているはずの感覚が、少し遠かった。
構わず踏み込もうとした時、昼の食堂の光景が、ふと頭を過った。
むせたまま固まっていたラビの顔。コップを握り締めていた左手。
……私、何かおかしなことを言ったかしら。
一拍遅れた踏み込みを、神田の木刀が容赦なく弾いた。乾いた音が響いて、手から離れた木刀が床を滑っていく。
「何ボケっとしてやがる」
「……ごめんなさい」
神田は構えを解かないまま、じっとこちらを見ていた。
「隙だらけだな、最近」
言い返す言葉が見つからなかった。神田はそれ以上何も聞かず、床の木刀を顎で示す。
「考え事なら、振ってからにしろ」
私は頷いて、木刀を拾い上げた。