第15章 【第十四話】言いかけた熱
鏡の前の椅子へ腰掛けると、背後に回ったアレンが、手拭い越しにそっと髪を包んだ。傷へ響かないよう、少しずつ水気を取っていく。
それから、机の上のドライヤーを手に取った。
温かい風が、髪の間を抜けていく。片手で持って、もう片方の手で梳く。
私が今夜、どうしても出来なかったことだった。
「痛くないですか」
「平気よ。……アレンの手、こんなに大きかったのね」
髪を梳いていた指が、一瞬だけ止まった。
また、毛先を挟むようにしてアレンが丁寧に風を当てていく。
「……いっそ、短くしてしまおうかしら」
ドライヤーの音が、ぷつりと止んだ。
「怪我が治るまで、毎晩これじゃ不便だもの。肩くらいまでなら、片手でも――」
「駄目です」
指先に掬われたままの一房が、きゅっと握られた。
鏡越しに目が合う。アレンは自分でも驚いたように瞬きをして、握った髪へ視線を落とした。
「……せっかく、こんなに綺麗なのに」
零れるみたいな声だった。
「え?」
「っ、いえ。……治るまで、僕が乾かしますから」
「治るまで、って……いつになるか分からないわよ?」
「構いません」
鏡の中のアレンは目を逸らさなかった。
再び、温かい風が髪を揺らし始めた。