第15章 【第十四話】言いかけた熱
沈黙に耐えきれなくなったみたいに、ラビが吹き出す。
「……なんさ、この空気」
「ラビが変に意識するからでしょう」
「してねぇし」
そう言い切ったくせに、跳ねた赤い髪の隙間から覗く耳の先は、うっすら赤い。
私が思わず笑みを漏らした瞬間、ラビの動きがぴたりと止まった。
翠の瞳が、じっとこちらを見る。
「……なに?」
「いや」
ラビはきまり悪そうに視線を逸らし、乱暴に前髪を掻き上げた。
「なんでもねぇ」
少し掠れた声に、瞬きをする。
ラビは自分の肩掛け鞄を背負い直すと、私の足元に置かれていた手提げ鞄を当然みたいに持ち上げた。
「ほら、帰るぞ」
「あ、鞄……」
「片手じゃ持ちづれぇだろ」
さらりと言って、ラビは二つの鞄をまとめて左手へ持ち替える。
そのまま自然な足取りで歩き出した。
病院の重い扉を出る頃には、彼の歩幅はもう無意識みたいに私へ合わせられていた。
その慣れた気遣いに、どうしてか落ち着かなくなる。
外へ出ると、空はすっかり晴れ渡っていた。水気を含んだ石畳が、朝日に淡く光を返している。
教団本部行きの汽車までは、まだ少し時間があった。
「……なんだか賑やかね」
駅前通りを見渡しながら、呟く。
広場には色とりどりの布が張られ、屋台が並んでいた。焼き菓子の甘い匂いに、陽気な楽器の音が混じっている。
どうやら、この地方の収穫祭らしい。通りの頭上には、小さなランタンが無数に吊るされている。
まだ火は灯っていない。
陽光を受けて揺れる色硝子だけでも、十分に綺麗だった。
少しだけ瞳を細める。
人が笑っている。
音が、ちゃんと響いている。
その当たり前の光景に、肩の強張りが少しだけ解けていく。