第14章 【第十三話】夜明けまで、この手を
ストーブの燃える音と、雨音だけが静かに流れている。
目を閉じようとすると、あの遊園地の光景が浮かんだ。灰色に歪んだ空間と、耳元で軋んだ声。
――その喉さえ残れば、それでよい。
息が浅くなる。無意識に、毛布を握り締めていた。
「……ティファ」
目を開けると、ラビが椅子に座ったまま、こちらを見ていた。
「眠れそうにねぇ?」
「……少しだけ、目を閉じるのが怖いの」
正直に答えると、ラビの瞳が僅かに翳った。
「……ラビは?」
彼は弱ったように笑った。
「無理だな。目ぇ閉じると、お前が消えんのが浮かぶ」
掠れた声が、静かな病室へ落ちた。
私は毛布を握る左手に、少しだけ力を込める。
「返せ」と叫んでいた彼の声が、耳の奥で蘇った。
「……なら」
ラビが視線を上げる。
「……もう少し、こっちへ来ない?」
数秒、完全な沈黙が落ちた。
「……は?」
「近くにいた方が、ちゃんと休める気がするの」
――ただ、一人で椅子に座っているラビが、妙に遠く見えたから。
ラビは片手で顔を覆ったまま、動かなかった。
「……ティファ。オレ、男なんだけど」
「知ってるわ」
ラビが天井を仰いだ。
「……駄目だ。会話になんねぇ」
そう言いながらも、彼は結局、椅子を少しだけベッドへ寄せた。それだけで、不思議と息が楽になった。
控えめなノックの音がした。
「失礼します」
入ってきたのは先ほどの看護師で、その両腕には毛布と簡易の敷布団が抱えられていた。