第14章 【第十三話】夜明けまで、この手を
「あなたも火傷が酷いですから、今夜は様子を見られる場所にいてください。床なら宿直用の寝具が使えます」
「いや、オレは――」
看護師はラビと私を交互に見て、穏やかに微笑んだ。
「……どうせ、別室へ戻る気もないでしょう?」
にこやかに遮られて、ラビが言葉を失う。珍しく、露骨に気まずそうな顔をしていた。
「……オレ、そんな顔に出てた?」
「ええ、かなり」
看護師は慣れた手つきで、ベッドのすぐ隣へ敷布団を広げていく。
「無理して動かないでくださいね。夜中に何かあれば、すぐ呼んでください」
そう言い残して、看護師は病室を後にした。
ラビは床の布団を見下ろし、深く息を吐く。
「……あの看護師、ぜってぇ面白がってたろ」
「でも、優しい人だったわ」
「……お前、どっちの味方なんさ」
包帯の腕を庇いながら、ラビはゆっくり敷布団へ腰を下ろした。
毛布に沈み込んだまま横を向くと、敷布団の上から、ラビがこちらを見上げていた。
ふっと目を細めた。
「……やっと、その顔に戻ったな」
「どんな顔?」
「……何にも分かってねぇ顔」
私はその意味を深く考えないまま、瞬きをした。
「ほら、もう寝ろ」
右腕に残っていた冷たさへ、ストーブの熱がようやく届き始める。すぐ下から聞こえる息遣いを数えているうちに、瞼の裏の遊園地が遠のいていった。
「……ラビ」
眠りに落ちる手前で、もう一度だけ名前を呼んだ。
「ん?」
「……ちゃんと……いるわよね?」
自分でも、どうしてそんな確認をしたのか分からない。
ストーブの火が、小さく爆ぜた。
「いるさ。どこにも行かねぇよ」
その声を聞きながら、私は目を閉じた。