第14章 【第十三話】夜明けまで、この手を
病室は狭かった。
簡易ベッドが一つと、壁際に小さな棚、それから木製の椅子が一脚。隅のストーブが、火を灯している。窓の外では、弱い雨がまた降り始めていた。
ラビは扉の前に立ったまま、中へは入ってこない。
私はベッドへ腰を下ろし、包帯の巻かれた右腕をそっと抱える。ストーブの熱は届いているのに、触手に絡め取られた腕だけが、まだ冷たかった。
「……で?」
「え?」
「感想。言わねぇと、次置けねぇんだろ」
「……一人、ずっと気になってる人がいるの」
「どうせ、最後に裏切る奴だろ」
言い当てられて、思わずラビを見る。彼は扉に凭れたまま、当然みたいな顔をしていた。
「……どうして分かるの」
「お前が引っ掛かりそうなとこくらい、分かるさ」
抱えた右腕へ視線を落とす。読み終えた夜、頁を閉じられなかったことを思い出した。
「初めは嫌いだったのに、あの人の章を読んだら、責められなくなったの」
「……お前、ああいうのにも肩入れすんのな」
「だって、あの人にも、あの人の理由があったもの」
「……そっか」
「アレンにも貸していい? きっと好きだと思うの」
「……あいつには、あいつ用の選んでやるよ」
短く返して、ラビは扉の前から離れた。
「ほら、ちゃんと横になれ。そのまま朝まで喋ってる気だろ。顔に書いてあるさ」
図星を指されて、言葉に詰まる。
「……ラビは?」
「オレは椅子で十分さ」
彼の顔色は、まだ悪い。包帯の巻かれた腕も、微かに震えていた。
「でも――」
「いーから寝ろ」
私は少しだけ迷ってから、観念してベッドへ身体を預けた。右腕へ、鋭い痛みが走る。
「っ……」
「だから言ったろ」
ラビは眉を寄せたまま、当たり前のように毛布を引き寄せ、私の肩へ掛けた。その手つきが、妙に優しい。
「……ありがとう」
そう零すと、ラビは何も返さず、毛布の端をもう一度だけ直した。それから椅子をベッドの横へ引き寄せ、深く腰掛ける。