第14章 【第十三話】夜明けまで、この手を
「……分かった」
ラビが、短く頷いた。
トーマスの背中で、少年が力なく揺れている。目は開いているのに、その瞳には何も映っていない。
人気のない街道をしばらく進むと、濃い霧の向こうに、古びた煉瓦造りの建物が見えてきた。
小さな地方病院だった。
入口のランプだけが、湿った夜道へ淡い明かりを落としている。
「こちらです」
トーマスが扉を押し開けると、消毒液の匂いが鼻を掠めた。室内の温もりが、冷え切った身体へじわりと広がる。
張り詰めていた糸が切れたみたいに、視界がぐらりと揺れた。
「……っ」
足元が崩れる。右腕へ鋭い痛みが走り、息が詰まった。
倒れる、と思った時には、強い力に身体を引き寄せられていた。
「ティファ!」
抱き留める腕は熱く、呼吸は荒い。支える力が強すぎて、痛む右腕へ鈍い衝撃が走った。
「おい、しっかりしろ……!」
その声が、僅かに震えている。
私は彼の団服を左手で軽く掴み、小さく息を吐いた。
「……平気、よ」
「平気なわけあるか」
翠の瞳が、血の滲む私の右腕へ釘付けになっている。その目に浮かぶ焦りに、少しだけ息が苦しくなった。